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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

一番大切な蜂蜜

ハムスターの舞い

 

 三十一歳の時、母と中国の桂林に行くツアーに参加した。東京で独り暮らしをしていた私だが、普段節約を心掛け、母の誕生日には旅行をプレゼントするようにしていた。両親は、私が二十歳の頃に離婚している。しかも高齢出産の子だったので、私は成人してから常に親孝行は早めにしておこうと考えていた気がする。母は中国の歴史が好きで、その年は実家のある岡山の空港から中国の広西チワン族自治区に行くツアーに決めた。自分達以外にも十人ほど参加者がいることが話好きな母には良かったと思う。私は最年少で、メンバーの殆どが悠々自適に生活をされている岡山のご老人だった。目玉は桂林で、川沿いに小さく尖った山々が連なる山水画の風景で有名な町である。遊覧船で蛇行した川を下り、そこから近くの土産屋がある村にも立ち寄った。土産物と言っても、家の前に木製の台を置いて、そこに手芸品などが並べてあるだけだ。
 そこに蜂蜜があった。
 一見すると、日本でも良く見る瓶詰の形をしていたが、容器はプラスチック製で、マヨネーズの蓋を大きく伸ばしたような赤い栓がしてあった。大、中、小とあり、小はそうでもないが、大はやはり日本で買うよりも大分安い。私は蜂蜜が大好物である。家には常備してある。料理に使っても良いし、デザート代わりに舐めても良い。旅先で土産物は殆ど購入しないが、蜂蜜だけは気になって見てしまう。村が小さく飽きてしまったのか、いつの間にか悩む私をツアー客全員が取り囲み、助言をしたり、揶揄したり、買うか買わないか見届けようとしていた。簡易的な造りが気になるし、容器を傾けると隙間を流れる速さから、水でも混ぜてあるような薄さも感じる。店主は百パーセント蜂蜜だと言うが、海外旅行ではあまり信じられる言葉ではなかった。風光明媚な桂林の蜂蜜の味は気になったが、今回は諦めようと決めかけた時、一番みんなを笑わせ、元気だった六十代くらいの男性が、「取りたてのはそんなもんよ」と、後ろから教えてくれた。
 実を言えばその蜂蜜、そんなに美味しくなかった。東京に帰った私は、恐る恐るスプーンで掬って舐めてみて、顔を顰めた。変な味ではないが、やはり味が薄い。だから、十年たった今も台所にあり、夫に「何で使わないの?」と言われる。一度捨てようとも考えたが、しなかった。棚の奥で見るたびに、体力が落ち、旅行に行くこともなくなった母が、桂林の山々に感動していた様子と、元気で楽しかったご老人達が思い出されるからだ。
ただ、大にせず小にすれば良かったとだけはいつも思ってしまう。

 

(完)

 

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